受験生と励ますさん第1章_1

受験生と励ますさんの物語

おはよう。こんにちは。こんばんは。励ますさんです。
Twitterの方で告知した通り、今後『受験生と励ますさん』の物語が連載されていきます。

この物語では、私(励ますさん)の実際の大学受験に基づいたお話をしていきます。
物語には、やや現実と乖離した部分もありますが、みなさんにとって大切な部分はできる限り具体的に私の経験を載せていくつもりです(勉強の計画をどうたてたか、どんな計画をたてたか、たてた計画に沿って勉強して本当に結果はでてきたのか。伸び悩んだ時のメンタル面はどうしたのかなど)。

この連載を読んで”受験前に読んでよかったな”と思ったら、ぜひぜひ他の受験を控えているひとに『受験生と励ますさん』の物語を教えてあげてください。

それでははじまりはじまり。

 


第1章_1 励ますさんとの出会いは突然に

 夢を諦めた。
 箱根駅伝に出たかった。
 それは中学生の頃から持ち続けていた夢だった。
 箱根駅伝に出るには、陸上部に入り、高校3年生の春までに力をつけて、箱根駅伝によく出場している大学に推薦をもらわなければならない。
 当時私はそう思っていた。
 高校まではスポーツ推薦で進学することができた。
 けれども、大学の推薦をもらえることはなかった。
 力不足だったのだ。
 高校3年生の春の大会が終わり、私は部活を引退した。
 引退したのはつい、さきほどのことだった。
 がたんごとんがたんごとん、私は、電車の中で揺られていた…。

 話は部活を引退する1週間ほど前に遡る。
 今日も、練習でへとへとになり、帰路についた時のことだった。
 「そろそろ卒業後の進路も現実見て考えた方が良いかな…。」
 漠然とそう思った。
 それから、立ち止まった。
 …あれ、誰かに見られている?
 背後に視線を感じた私は、後ろを振り返った。
 誰もいない。
 気のせいかと、再び前を向いて歩き出そうとしたのだが、その時、肩をトントン、と叩かれた。
 おそるおそる振り返ると、ずいぶんと視線の低い所に彼女がいるのに気がついた。

 「にいちゃん、にいちゃん、…どないしたん?なんか…ごっつい暗い顔しとったで?」
 …私は困惑していた。
 驚いたのは、関西弁訛りな話し方にでも、突然話しかけられたからにでもない。
 それ以上に、彼女の姿を見て私は、口が開きっぱなしになった。
 白髪、ブルーの瞳、赤い浴衣の組み合わせは、私に不思議な感覚をもたらした。
 今は春だ、まだ夏祭りの季節ではない、なぜ浴衣なのだろうか。
 更に言えば、そんなことよりも奇妙なのは、彼女の身体は地面についている様子がなく、宙に浮いている。

 私は彼女を見た。
 見たと言っても凝視するなどとんでもない、チラチラと見たのだ。
 すると彼女は言った。
 「そんなじろじろみて、失礼やなー。なんか変なもんでもついとるんか?」
 そう言うと、彼女はどこからともなく手鏡を出し、顔を覗き込む。
 いやー、変なものが見えることもあるんだな、疲れてるんだきっと。
 私は何もなかったことにして帰ることにした。

 しばらくしてから、手鏡チェックを終え、一人取り残されていることに気づいた彼女は、空中移動でこちらへやってきた。
 「まってーな、にいちゃん!それはいくらなんでもひどいわー。」
 さてはて、早歩きや、めちゃめちゃ走って追いつく、ということは知っているが、人が空中を移動する、などということは生まれてこのかた、聞いたことも見たこともなかった。
 自分の頬をつねると痛かった、どうやら夢ではないようだ。
 「えっと、妖精さん?人間の世界に何か御用でしょうか。」
 それを聞くと、それまでの彼女の鬼の形相は、一転して無表情になった。
 そして、どう言う訳か、突然声をあげて笑い出した。
 「はあはあ…。もう、お腹痛いわ!やめてーな。うちが妖精?そんなわけないやろー。まあでも、確かににいちゃん言うようにうちは人間ではないな。」
 それではなんなのだろうか、答えを探すも、私の頭の中から見つかるはずもなかった。

 どういうわけか彼女は、私の家の最寄駅まで付いてきていたのだった。
 それまで特にこれといって会話はなかったのだが、ここにきて、あ、そうそう、と彼女から話し始めた。
 「にいちゃん、うちと会う前、進路のことで悩んでたやろ?」
 私は確かに、さきほど進路のことを考えていた。
 「その顔。図星やろー。陸上、あんましうまくいってないみたいやな。でも、諦めるのはまだ早いで。陸上で大学目指したいって、ずっとおもってたんやもんな。」
 私はキョトンとした。

 ニッとした彼女は続けて言う。
 「今なんでそんなんわかるんやろう、おもたやろ?うちは、何でもお見通しなんや。今陸上は少し苦しい状態かもしれへんけど、諦めたらあかへん。もう少し、やれるだけやってみ??」

 先ほどは現実を見て、新たに進路を考えた方が良いかもしれない、なんて思ったが、それはまだ早かったかもしれない。
 彼女の言葉を聞いて私は、もう少し、自分のやれることを精一杯やろうと決心した。

 彼女は私の様子をじーっと見ていた。
 「よっしゃ、にいちゃん、えらいな。もう少し頑張ってみよか!」
 それから、咳払いをして、彼女はこう付け足した。
 「あとな、さっきも言うたけど、うちは妖精さんやあらへん、『励ますさん』や。にいちゃんとはまた近々会うことになると思うけど、これからもよろしゅうな。」

 私が、励ますさんか、ふーんと思っていると、彼女はじーっ…とこちらを見て、どう言う訳か耳元に口を近づけた。
 そして、こう囁いた。
 「うち、こう見えてにいちゃんよりも結構大人なんやで。…あんまりやらしいこと考えたらあかんよ…、にいちゃん…。」
 私の肩をポンと叩いた後、笑顔とともに消えていった。

 なんという捨て台詞なのだろう。
 誤解のない様に伝えておくと、もちろん、いやらしいことなど考えていなかった。

 この日私は、励ますさんと初めて出会った。


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